龍神池

神社正面の注連柱から境内に入り、参道の右手に「龍神池」が水を湛えている。この池には、古来より、秩父の霊山・武甲山からの伏流水が湧き出ている。西暦百年前後に信州諏訪の勢力が秩父に移住し、その実力者の一人がここに「水神」を祀ったのが当社の淵源といわれている

「龍神池」はその名の通り、龍神の仮の姿である「霊泉」の湧き出るところ。毎年4月4日に執り行われる「水分神事(みくまりしんじ)」では、龍神の依代となる「水幣(みずぬさ)」を秩父神社から御神幸行列で来た神官・神部らに授与。神官らはそれを秩父神社に持ち帰って境内にて御田植神事をおこなう。持ち帰った水幣を田の水口を模した「藁の龍神」の口に刺すと、田んぼに水が広がっていくように境内の敷石に龍神の御神霊が行き渡り、そこを一面の水田と見立てて、神部等が田植唄を歌いながら、面白おかしく御田植の所作を行う。

御田植祭でもたされた水の恵みにより秩父地方の1年の農耕生活が始まる。そして、秋の終わりに、その収穫を祝って行われるのが12月3日の秩父神社例大祭(秩父夜祭)である。秩父夜祭の御神幸行列の先頭をゆく樽神輿には、春の水分神事で当社から授与された龍神の御分霊の依代となった藁の龍神が奉斎されている。
12月3日の深夜、華やかな屋台笠鉾の勢揃いする中、武甲山を仰ぐ御旅所で厳かに斎行される祭りは、まさに、春に当社から迎えた龍神の神霊を、感謝とともに武甲山に返す神事にほかならない。